リーダーはビジョンブックで現場とコミットメントする

組織や企業の形として、大きく分けると「ボトムアップ型」と「トップダウン型」があります。学生起業家の茂木氏は、創業から約1年が経ち、組織の在り方やリーダーの在り方について考えるところがあるようです。リーダーはどのように現場のスタッフと接し、コミュニケーションを取りながら経営していくのが良いのでしょうか。

 

 

※本稿は、SAKURA United SolutionのYouTubeチャンネル内に開設した、iU学生起業家の茂木大暉氏(GADGETANKER LLC CEO)の経営相談に応える新コーナーより一部抜粋、編集したものです。

 

※iU(iU情報経営イノベーション専門職大学):2020年に設置され、東京都墨田区文花に本部を置く日本の私立専門職大学。産業界と連携した新しい学び、イノベーションを起こす人材を育成している。井上一生は、iUの客員教授を務めている。

 

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ボトムアップ型組織とトップダウン型組織

社員・スタッフの声を聞き、経営判断していく「ボトムアップ型組織」と、経営トップである社長・代表が意思決定し、経営判断していく「トップダウン型組織」。2つのタイプに分けると、それぞれが分断されているような印象を受けるかもしれませんが、実際には両方の面を持ち合わせている組織・企業が多いのではないでしょうか。

 

「最終権限・最終意思決定はトップダウンなのだけれど、そこまでのプロセスはボトムアップで行う」

 

というのが、実際には多いように思います。まず、最終権限・最終意思決定がトップダウンでなければ、目まぐるしいスピードで変化する経営環境・社会環境においては取り残されてしまいます。つまり、機会ロスが起きる。スピード感を持って意思決定する必要があります。「みんなが納得したら」などと言っていたら、もう遅いのです。「最終的にはリスクを取る。リーダーである私の責任で」というのを、どこかのタイミングで決める。どのタイミングでかを決めるのも、トップが判断するのです。

 

しかし、そこまでを決めるプロセスに関しては、ボトムアップでいろいろな人から意見を聞かなくちゃいけない。取締役・役員だけでなく、部長や課長、現場の人にも意見を聞いていくことが必要です。ところがなかには、「意見を言ってもムダだ」と思って発言しない人もいます。みんなの意見を調整するということは、とてもとても難しいことです。不満があっても、それをしゃべってくれない人が多い。文句でも良いからなにか言ってくれる人は、まだ会社・組織に対して期待をしてくれているということです。文句でも何でも、無理やりでも聞き出す。リサーチするということ自体は、リーダーである社長の仕事です。

ビジョンブックで現場とコミットメントする

日本人には、「ざっくばらんに語らない」「推して知るべし」「あとで禍根が残る」と、なかなか面と向かって議論ができない人もいます。そんななかで、どうすればみんなから意見を聞き出すことができるか。リーダーである社長もみんなのことを知って、どのように共感を得て事業を進めていくかということ。リーダーである社長がどのような考えで会社を経営しているのかをみんなに知ってもらうこと。そんなプロセスが必要だと感じていました。

 

そこで今年チャレンジしたのが、ビジョンブックの発行です。各部署の責任者やプロジェクトのリーダーを呼んで、対談形式で話をしました。そして、それを原稿にまとめて一冊の本にしたのです。

 

各部署の責任者やプロジェクトのリーダーが、自らの言葉で「だれのために」「どんな課題を解決するために」「どんな役割をして」「どんな未来像を描く(実現したい)のか」を言語化していきます。5年後はこうあるべきだとかいう指針を固め、各部署と経営トップとでその内容の擦り合わせを、ビジョンブックという本の編集の過程で行っていくのです。これはまさに、現場と経営トップとのコミットメントであり、方向性の合意形成をするということです。

 

日々考えていることを言語化するだけでも、組織内のコミュニケーションは変わっていくでしょう。ベンチャー・スタートアップ企業や中小企業の場合、暗黙知が多く言語化されていることの方が少ないくらいです。ビジョンブック制作のなかで、現場の責任者が考えていることと、経営トップが考えていることをマージさせ、コンバインして、それをビジョンブックという本にしていく。言語化して原稿になったものを何度も確認していく過程もありますから、複数の意見がそこで融合していくのです。

 

このプロセスを、できれば毎年でもやるべきなのかもしれません。半年もすれば、経営環境は変わっていきます。普遍的なことや原理原則はありますが、変化していくことの方が自然です。対談し、意見を聞く。意見の不一致がある。不一致で良いのです。「現場はこういう方向でやりたい」「経営トップはそれをこう応用したい」。それなら、現場の意見を通しながら最終的な経営判断はこう、というような見事な着地というのを、ビジョンブックのなかで上手くまとめていく。折衷案ではなく、「1+1=3」を作っていくということです。経営計画とはまた別の、ビジョンブックで会社を、組織を成長させることができると思うのです。