未来のB/Sをつくることが私たちの使命(新田信行特別顧問×井上一生対談②)

弊グループでは、地域企業と社長ご一族を、資金調達・財務支援、組織・人事労務支援、IT・DX推進支援、M&A・相続・事業再生支援といった多角的なアプローチでご支援しています。日本全国の地域企業の持続性を高め、日本復興を実現するためには、地域金融機関との連携強化が欠かせないと私は考えています。今回は前回に続き、SAKURA United Solutionの特別顧問をお願いしている新田信行氏と対談を行いました。特に印象的だったのは、「バンカーは、会社の未来のB/Sを知りたい」という言葉。その重要な役割を担えたらと思います。

 

【新田 信行(にった のぶゆき)特別顧問 プロフィール】

1956年生まれ、千葉県出身。1981年に第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行。

みずほフィナンシャルグループ与信企画部長を経て、2011年にみずほ銀行常務執行役員。

2013年から2020年まで第一勧業信用組合理事長、会長。開智国際大学客員教授。

地域金融機関の有志が集まる「ちいきん会」代表理事。

会社の未来は対話から生まれる

井上一生(以下、井上):新田さんは、代表理事をされている「ちいきん会」でも対話を大切にされていますが、新田さんが社長と対話するとき、どんなことを重視していますか

 

新田信行特別顧問(以下、新田顧問): 私は、「社長が未来を想えるかどうか」を見ています。社長に「会社を3年後、5年後どうしたいの?」と聞いても、未来の話にならないことがあります。未来のことを真剣に考えず、過去の話ばかりで、本業をおざなりにしてゴルフや会合にばかり出ている社長に明るい未来は来ないでしょう。

 

また、士業やコンサルタントと言っても、多様な経歴、スキルの人がいて玉石混交です。中には、綺麗事や正論ばかりを並べて現場を直視できていない人もいます。安全地帯から士業やコンサルタントに綺麗事や正論を振りかざされても、日々必死に経営している社長の心には言葉が響きません。

 

井上:私も同感です。税理士も、申告書をつくればそれでお終いという税理士が多いです。申告書の控えを銀行に持っていくシーンを想像できないのです。勘定科目の内訳をみれば、どんな社長かわかります。社長のクセは、決算書に必ず現れています。銀行に控えを持って行き、交渉するシーンまで想像を巡らせることのできる税理士でないと、ただの決算書、申告書の代書屋ではダメだと思います。

 

新田顧問:社長は、「自分がこれからどうしたら良いのか?」を税理士先生に相談したいんです。税務だけじゃなく、幅広い視野で話せる相談相手を求めていると思います。そういう相談ができる税理士には、そういう相談をしたい社長が集まるはずですよ。社長から「良い税理士さんを紹介して」と言われることがあります。それは、税務申告のことを相談したいわけではないのです。

 

私が融資担当の頃、決算書がどんなに良くても、人物を見て貸さないことがありました。嫌な人には貸さない。一方で、赤字でも人物が良ければ貸す。過去に対してお金を貸しているのではなく、未来に対してお金を貸しているんです。一緒になって、未来をつくりたいんですよ。

 

井上:その想いに共感します。過去の話ではなく、足元の今期と来期、そして3年後、5年後、10年後の話をしたいです。会社をどうするか?どうしたいか? そんな相談ができる相手が増えれば、社長も助かると思います。

 

新田顧問:未来を想えない人に未来はないのではないでしょうか。必死に未来のことを想っている社長、想いをともにできる士業、金融機関が、地域や日本の未来を創ると思います。

バンカーは「未来のB/S」を知りたい

井上:地域の金融機関の方々にとって、私たちのような士業やコンサルタントはどんな役割を担えば有難いのでしょうか?

 

新田顧問:バンカーは、会社の未来のB/Sを知りたいんです。未来のB/Sをつくってくれる士業・コンサルタントがいれば、金融機関としても助かるでしょう。多くの人は、P/Lを重視します。特に、IPOを目指す企業ほどそうです。バンカーは、現在地と頂上(未来)を知りたいのです。三合目七合目ではなく、頂上という未来からのバックキャスティングして、三合目七合目、現在地までの線を引きます。

 

現在地の延長線上の「課題解決」ではなく、「こういう未来にしたい」という強烈なイメージをつくるのです。イメージが具体的であればあるほど、未来の在庫どれくらいか? 未来の設備どれくらい必要か? 未来の負債どれくらいか? …と、社長が自分で未来のB/Sを考えるようになります。

 

井上:未来のB/Sを、伴走してつくっていきたいですね。地域の金融機関と、そんな協力関係を築きたいです。

 

新田顧問:社長も士業の先生方も、デッドとエクイティの使い方に明るくないケースが多いですから、それぞれの活用方法も啓蒙してほしいと思います。カネはモノの代替です。資金使途は、流動資産か固定資産かのどちらかです。IPOを目指す企業の中には、在庫を含めて、すべてをエクイティで調達している企業もあります。その後、無理やりVCの筋書きでIPOするのです。IPOも、ゴールではなく手段です。上場できても結局、社長のやりたいことができなくなるということがあります。それでは、本末転倒でしょう。

 

モノの代替は、デッドで借りれば良いのです。低金利時代なので、無借金経営である必要はないんです。無借金経営が良いわけでも、悪いわけでもありません。重要なのは、そもそも社長はなにをやりたいのか?です。

仮に、年商10億円にするときに、売掛金、在庫、固定資産はどれくらい必要になるのか?を具体的にイメージすることです。コロナで過去の数字が役立たない、あてにならなくなりました。未来の数字を必死に考えることが必要です。足元のB/Sは、出発点ですから重要です。そこから、未来の数字を魂を入れてつくるのです。この役割を士業やコンサルタントが担ってくれれば、金融機関としては有難いでしょう。

理念に共感してくれる人だけで良い

井上:そんな士業やコンサルタントを募っていきたいのですが、どのように集めて人選するのが良いと新田さんは思いますか?

 

新田顧問:社長の価値観も多様化しています。IPOを目指す人、利益を追求する人、地域貢献をしたい人…価値観は社長それぞれです。士業やコンサルタントも同様でしょう。ですから、理念に共感する人だけで良いと思います。そういう人と一緒に未来をつくっていきたいですね。人と人がつながることで未来が生まれると思います。

 

だれかが壁打ちの壁となり、話をすると、社長も頭の整理ができるのです。自問自答では整理できないですよ。また、士業やコンサルタントが自分の型にはめようとすると、対話になりません。対話ではなく、それでは提案型営業コンサルです。先入観や思い込みを捨て、しっかり傾聴すると、次の問いが生まれます。「会社の未来をどうしたいか?」から始まる問いです。未来をつくるのは人です。経営資源のヒトモノカネは、あくまでも人が最初です。それを忘れてはいけません。

 

井上:未来を想う社長と士業・コンサルタントがつながるとき、新しい価値が生まれると思います。地域の企業や金融機関に貢献することで、地域経済や社会、日本の未来をつくっていきたいですね。