なぜ経営にとって、「人時生産性」がもっとも重要な管理指標なのか?

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人時生産性は、私のメンターであるサイゼリヤの創業者・正垣さんから教えてもらった

もっとも重要な経営のコツです。

経営者として学び、活用しなければならない経営管理指標だと思います。


税理士を代表とする会計を学んでいる人は、「人時生産性」の概念を学ぶ機会がありません。

人時生産性の数値を、飲食や物販の店舗向けの管理数値だと誤解している税理士もいます。

 

この数値は、労働集約型のビジネスなら、すべてに共通する経営管理指標です。

 

会社が赤字である最大の原因は、人件費です。家賃は一度決めたら通常変動しません。

その他の経費は、だいたい平準化してきます。材料原価も当然コントロールされています。

 

一番コントロールできないのが人件費です。

 

人件費と収益性の関連性を管理すれば、利益はおのずとついてきます。

その管理指標が人時生産性なのです。

 

サイゼリヤやニトリのお店に行ってみてください。

 

両店とも「従業員の労働時間と、それに対応する収益性」を

最初から設計されているビジネスモデルです。

できる限り人手がかからないように設計してあります。

 

人時生産性とは、

 

「一日や一年に生じた店舗の粗利益を、その日やその一年に働いた

従業員の総労働時間で割ったもの」です。

 

具体的に数字で理解してみましょう。

これは、ある店舗の一日です。

 

一日の売上高:10万円
粗利益率:65%(原価率35%)
粗利:6万5000円
時給1000円の従業員が、8時間勤務2名、3時間3名、計25時間働くとする。


粗利6万5000円から人件費2万5000円(1000円×25時間)を引いて、

「4万円儲かった」と、普通は理解します。

 

では、これを人時生産性による管理に照らし合わせてみましょう。

 

粗利6万5000円を総労働時間25時間で割ると、人時生産性は2600円。

 

この数値で経営を見つめます。

 

「正垣さんは、生産性を最低でも一人6000円にしなくちゃいけないと話している。

半分以下じゃないか!」と言うことになります。

 

さらに、このお店にはオーナーがいます。

 

経営管理を中心にしています。

お店には出ていませんが奥で8時間働いていたとして計算すると、

 

粗利6万5000円を総労働時間25+8時間で割れば、

人時生産性は1969円です。

 

これでは家賃も出ません。

街のレストランなら、2000~3000円がやっとです。

 

しかしサイゼリヤの正垣さんは、

管理部門の人間の労働時間を入れても「6000円にしろ」と言います。

前述のとおり、サイゼリヤは

「いかに効率的に働くか」を仕組み化してあります。

 

例えばドリンクバー。

 

「飲み物は好きなだけ自分で取ってきて」ということです。

 

飲み物で儲けるのは諦めた。

その代わり、運ぶ人経費は削減しようというトレードオフ思考です。

水を持ってきてくれることもありません。水もセルフです。

ナイフやフォークは、プラスチックのケースにそれぞれ何人分というように、

お客様がいないときに、あらかじめ分けて積んであります。

客数を見て、プラスチックのケースを選んで、ドサッと置くだけです。

サイゼリヤでケーキを頼んでみてください。

 

お皿とケーキ合わせてフォークも一緒にして冷蔵庫で冷やされています。

暇な時間にセットをしておくわけです。

 

このように、無駄な動作を徹底的に排除する努力がされています。

 

人時生産性の考え方をサイゼリヤの正垣さんに教えたのは、

渥美俊一という人です。渥美先生の本から、その考え方を抜粋します。


「まず将来のことを考えるならば、企業が小規模の段階から取り組まなければならないのは、

労働生産性という尺度の向上である。労働生産性とは、一人当たりの年間荒利益高のことである。

会社全体で年間1000万円、店段階では年間1200万円はほしい。

 

さらにこれを従業員一人当たりの、1時間当たり(この単位を“人時”=マンアワーと表現する)で

計算すると、人時生産性という尺度となる(人時生産性は一人1時間当たり荒利益高)。

人時生産性は会社全体で5000円を超えねばならぬ。

店段階では6000円以上が必要である。

 

おそらく実際に計算してみると大部分の企業がこの数字の2分の1ぐらいであると考えられる。

ときには、この3分の1以下の店もあるだろう。

これでは、経営者がどれほど従業員本位の環境や待遇を実現しようと考えていても、

そのことは数字上不可能なモチーフになってしまうのである。

少ない人数でより効率をあげる対策は、もちろん作業の仕組みづくりにある。

しかし、それを支えるのは、従業員一人一人の能力が、

分業するにふさわしいだけのものとなっていることである。

そのためには一人ずつ違ったそれぞれの職務を、

完全に成し遂げられるだけの能力付与が、一人ごとに行われている必要がある。

労働生産性は賃金原資だといっても、会社全体としてどこまで賃金を払いうるかの目安は

労働分配率で表わされる。労働分配率とは、荒利益高中の人件費の割合である。

この数字は38%から40%の間が望ましい。

成長対策としてスカウトや中途採用を活発に行ったときには、最大42%にまでなる」

(抜粋:『商業経営の精神と技術』)