主役は中小企業とその社長(川中凱雄氏×新田信行氏×井上一生鼎談①)

弊グループでは、中小企業と社長ご一族を、経営戦略支援、資金調達支援、組織・人事労務支援、IT・DX推進支援、M&A・相続・事業再生支援といった多角的なアプローチでご支援しています。今回は、社会保険労務士法人さくら労務の代表社員で、SAKURA United Solution株式会社の取締役をお願いしている川中凱雄さん、SAKURA United Solutionの特別顧問をお願いしている新田信行さんと「中小企業支援」をテーマに鼎談を行いました。中小企業の成長を実現させるために、今どのような支援が求められているのでしょうか。

鼎談時の様子(左から新田信行特別顧問、井上一生、川中凱雄取締役)

 

【川中凱雄取締役 プロフィール】

社会保険労務士法人さくら労務の代表社員、SAKURA United Solution株式会社の取締役、元オリックス株式会社副社長、元帝京大学経済学部教授、元一般社団法人日本エステティック業協会理事長とさまざまな役職を歴任。

令和2年度 社会保険労務士試験 78歳で最高齢合格を果たす。2021年10月より現職。他社の社外取締役としての活動も行う。バイタリティ溢れる人柄で中小企業の維持発展のためにチャレンジを継続している。

 

【新田信行特別顧問 プロフィール】

1956年生まれ、千葉県出身。1981年に第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行。

みずほフィナンシャルグループ与信企画部長を経て、2011年にみずほ銀行常務執行役員。

2013年から2020年まで第一勧業信用組合理事長、会長。開智国際大学客員教授。

地域金融機関の有志が集まる「ちいきん会」代表理事。

主役はあくまでも中小企業とその社長

井上一生(以下、井上):私は、税理士の資格を取るときからぼんやりとではありますが、「中小企業と社長、そしてそのご家族に幸せになってほしい」と思って経営支援をしてきました。中小企業を取りまく経営環境は、私が独立したときと比べればはるかに不確実性が高く、複雑で難しいものになっています。よく「VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代」と言われますが、そんな今、中小企業の成長を実現するためには、具体的にどのような支援が求められているのでしょうか。

 

新田信行特別顧問(以下、新田氏):主人公は、中小企業です。これを忘れてはいけません。金融機関も黒子、士業も黒子、専門家も黒子です。黒子に徹し、中小企業経営者の話を真剣に聞くこと。時に壁打ちの壁になりきって、徹底的に伴走する。これに尽きます。

 

「経営者を育てる」という気概のある人が減りました。いないわけではありません。探せばいますよ。金融機関にも士業にも専門家にも、そういった気概のある人は探せばいます。金融機関も士業も専門家も、中小企業を支援する立場の人間ですが、そういう人たちが作業労務者や物売りになってはいけない。経営者と触れ合い、経営者と信頼を構築していくのです。その信頼関係が、すべての原点です。

 

まずは、土台をじっくりしっかりとつくり上げること。絵に描いた餅ばかりを描くのではなく、具体的に「だれと組むか」。「どの中小企業の」「だれに(経営者)」「なにをするのか」を、具体的に固有名詞で語ることです。人物にフォーカスし、その人を中心に据え、その人や会社の課題をみて、その人や会社の真価を見抜き、成長を実現するのです。

 

餅を描いたり、スキームを描くのが得意な人はたくさんいます。しかし、それだけではなにもならない。スキームや計画、理念、ビジョン、パーパスも大切ですし必要なことではありますが、「目の前の煎餅一枚を食わせろ」というのが、社長の本音ではないでしょうか。

 

井上:だれかを助けるためにスキームは存在するのであって、スキームを試すための人や組織ではない。中小企業社長のだれを強くするのか。だれを育てるのか。そのために、だれと組むのか。それらを固有名詞で語れないと、すべては絵に描いた餅になってしまうわけですね。

 

私たちは、ビジョンブックというものを毎年つくっていますが、その制作過程で「だれが私たちの顧客で、顧客にはどんな課題があり、それを解決したり新たな価値を創造するために、私たちはなにをするのか」を各部署の責任者とディスカッションしながら言語化しています。それを、さらに固有名詞に落とし込んでいくことが必要だと、今改めて教わりました。

 

川中凱雄取締役(以下、川中氏):会社の成長は、しっかりと収益を上げて人や設備などに投資をし、さらに収益を上げることです。「だれかに認められ、役に立てているから収益が上がっている」ということを忘れてはいけません。あちこちやると、経営者の意識も人材などのリソースも散る。お金と時間の使い方を意識して、会社全体の財務状況も考えながらやらないと、なにも実現しません。まずは、強固な成功事例をつくること。新田さんが言うように、具体的にだれとなにをするのか。小さくても成功事例をつくれれば、自ずと口コミが起こって広がります。

中小企業も「雑金融の力」をもっと活用する

井上:肝に銘じます。川中さんはオリックスで副社長を務められ、「おれたちは雑金融業者」とよく仰いますが、雑金融の力を中小企業はどう活かせば良いのでしょうか?

 

川中氏:ベンチャー企業、スタートアップ企業は、資金調達を上手にする必要があります。すべてをエクイティで調達すると、上場できても他人の会社になってしまう。デットファイナンスとリースもうまく使うと良いでしょう。リースは実質的にはデットです。

 

リース期間を3年や5年に設定し、金利や保険料で回収するのがリースです。そのときの与信は、決算書分析から始まります。もちろん決算書だけではわからないので実施調査もします。現物担保はありますが、リース会社からすれば二束三文です。そのため、実質は無担保でデットで調達しているようなものです。

 

リース会社も「リース」という手法を使って売っているわけで、だからこそ自己資金一括では買えない高額なコンピューターが普及しました。今では大手になった光通信や大塚商会もリースで伸びたのです。デットもリースも上手に活用して、会社の成長に役立ててほしいですね。

 

井上:川中さんは「しょうもないと思う案件も、まずは持って来い」と仰います。その気概やバイタリティを、私も忘れないようにしたいと思います。

心ある金融と心ある経営支援を

井上:新田さんとは、新田さんが代表理事をされている「ちいきん会」でもご一緒させていただいています。ちいきん会で全国を飛び回っていらっしゃいますが、それはなぜなのでしょうか?

 

新田氏:それは、「この人」という人と会うためです。一言に、金融機関、士業、コンサル・専門家と言っても、玉石混交でいろいろな人がいます。「だれと一緒になって、なにをするのか」を具体化させるためには、人と会って見極めるしかありません。ですので、ちいきん会は人と会うための場です。

 

もともと「金融機関と公務員の接点が少ない」という問題意識があり、全国の金融機関の役職員と公務員が、肩書きを外して心理的安全性のもとで対話を行える場としてちいきん会はできました。2019年3月に初開催し、現在では全国で2800人以上が繋がる場になっています。

 

ちいきん会の目的は、「地域課題に基づく共感、および新たな出会いを創出し、各地域におけるイノベーションや参加者個人のモチベーション向上のきっかけになること」です。井上さんにも参加してもらったような、地域共創ラボや地域ダイアログを全国各地で開催しています。参加者は、財務局や町興し協力隊、地方創生に熱心な士業など幅広く、垣根を越えて集まっています。

 

井上:私も参加させていただき、もっとみなさんとの関係を深めたいと思いました。気概のある人とつながり、関係を深めて「心ある金融」「心ある経営支援」を実行していきたいです。新田さんは、みずほ銀行時代から「不良債権処理と事業再生なら新田」と言われるほど精通されていますが、どのように企業を見極めるのでしょうか?

 

新田氏:川中さんも「決算書だけではわからない」と仰いましたが、決算書だけでは会社の実態はわかりませんし、あてになりません。どこにでも悪い人はいるもので、決算書を複数パターンつくっている、二重帳簿・三重帳簿状態の会社もあります。「どこまでを粉飾というか」なのですが、かなりグレーゾーンがあるわけです。ですので、私は人物を見極めることが重要だと思います。決算書を良く見せることも、計画を仕立てることもできてしまいます。上手に絵に描いた餅を描く人はいますが、重要なのは実行すること、実現することです。実行するのは社長ですから、その人物を見極めるのです。

 

井上:とある銀行員に、「会計事務所は敵だ」と言われたことがあります。粉飾する会計事務所があることも事実で、中には酷い税理士もいます。申告書だけをつくっていれば良いと胡坐をかく税理士もいます。ですが、私たちはそうはなりたくありません。中小企業社長と心を通わせ、信頼関係を築き、世代を超えても伴走する存在。新田さんの仰るキャディのような存在で在り続けたいと思います。