なぜ会社を大きくしていくのか

起業してまず考えないといけないことは「生存対策」ですが、それを乗り越えた後は会社を大きくしていくことも考える必要があるでしょう。もちろん、事業規模や従業員数だけが会社の価値ではありませんし、起業家の価値でもありません。小さくても長く存続することも、経営者として素晴らしいことです。本稿では、私が若い頃にサイゼリヤの創業者である正垣さんに質問したことを中心にご紹介します。

 

※本稿は、SAKURA United SolutionのYouTubeチャンネル内に開設した、iU学生起業家の茂木大暉氏(GADGETANKER LLC CEO)の経営相談に応える新コーナーより一部抜粋、編集したものです。

 

※iU(iU情報経営イノベーション専門職大学):2020年に設置され、東京都墨田区文花に本部を置く日本の私立専門職大学。産業界と連携した新しい学び、イノベーションを起こす人材を育成している。井上一生は、iUの客員教授を務めている。

 

【iU学生起業家の疑問・課題をトコトン解決】深夜ラジオ感覚で“聞く”経営相談室

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独立・起業しても無言で撤退していく人がほとんど

茂木さんから、「どうやって仲間、社員を集めたのですか?」というご質問をいただきました。食っていくために無我夢中で、人手が足りないから採用する。また足りなくなるから採用するというくり返しだった、というのが正直なところです。今振り返ってみると、効率が悪い経営をしていたのでしょう。行き当たりばったりの採用ではなく、事業計画と採用計画を立て、戦略的にやっていればもっとスピーディーな成長ができていたのかもしれません。

 

経営というものは、原理原則はあっても「答えがないのが答え」とも言えます。内部環境や外部環境は、その都度それぞれで異なり、どう対応するかによって結果も変わるからです。人からアドバイスはもらえても、最終的には常に自分で決めていくしかないのです。

 

意を決して、しっかりと計画と戦略をつくって独立・起業したとしても、残念ながら撤退していく人がほとんどです。運も含めてうまくいった一部の人だけが生き残るのが会社経営です。会社を長く続けられるだけでも、本当に素晴らしいことだと思います。当たり前のことが実は特別なことですから、感謝を忘れてはいけません。

なぜ会社を興し、会社を大きくしていくのか

なぜリスクを取ってまで会社を興すのか? なぜリスクを取ってまで会社を大きくするのか? 起業前も、起業した後も、自らに問うことがあります。

 

そんなとき参考にするのが、まだ若い頃に質問していただいた答えです。

 

「社会貢献とはなにか?」

 

という質問を、船井総研創業者の船井幸雄さんと、サイゼリヤ創業者の正垣泰彦さんにしたことがあります。船井さんは、「多くの社員を雇って給与を払い続けること」。正垣さんは、「どれだけの数のお客様を幸せにするか」と仰っていました。

 

答えは人それぞれですが、「多くの人を幸せにすること」という点は共通しています。

 

「なぜ会社を大きくするのですか?」

 

という質問を正垣さんにしたとき、「井上は、1日8時間ニンジンを切り続けられるか?」と言われました。私は、「無理です」とすぐに答えました。

 

自分には合わなくても、その仕事が合う人がいるのです。人には得手不得手があり、ニンジンを週40時間切り続ける仕事でも、例えば、心にハンディがある人にとっては、喜びを感じてくださる人もいるでしょう。

 

私どもも、身体や心にハンディを持つ社員を現在5人雇用しています。例えばある人には、お客様からいただいた紙情報をデータスキャニングしてデジタル化し、保存する作業を毎日やっていただいています。正垣さんが言っていることは、会社が大きくなることで、紙情報をデータスキャニングする仕事を毎日発生させることができる。それがその仕事しかできない人にとっては、素晴らしい喜びの仕事であるかもしれない、ということです。会社を大きくすることで、そのような可能性を作ることができるかもしれません。

 

その人の得意な部分の仕事を生み出すことも、素晴らしい社会貢献です。毎月給与を払って、社員の生活を守ること。社員とそのご家族の生活を守ることは経営者としての責務であり、そのために会社を大きくする必要があります。安定して仕事を出せることも社会貢献ですし、多くの雇用を創出することも社会貢献。地方であれば、それが地域経済を守ることにもつながります。

 

日々忙しく過ごしていると、ついつい忘れてしまいますが、こういった経営者の役割や責務、会社経営の意義を改めて考えることも起業家にとって必要な時間でしょう。