【連載コラム③】組織再編で解決!後悔しないための事業承継対策 実践編「ケースで学ぶ!組織再編を使った承継シナリオ」
これまで、事業承継の基本と税の知識についてお伝えしてきました。今回はその集大成として、実際に「組織再編」をどのように活用して事業承継の複雑な課題を解決するのか、具体的な3つのケーススタディを通して見ていきましょう。「後継者に資金がない」「会社の不動産が承継の邪魔をする」といった、多くの経営者が直面するリアルな悩みを解決する方法をご紹介します。
【CASE1】後継者の自己資金ゼロ!新会社設立と株式売買で承継する

【課題】
後継者は決まっているものの、業績が好調なため自社株の評価額が高騰しており、後継者に株式を買い取る自己資金が全くない。
【解決シナリオ】
この典型的な課題は、複数の法人を組み合わせることで解決できます。
1.オーナー側の準備:まず、オーナーが**「財産管理会社」**を設立し、事業会社の株式をここに移します。そして、この財産管理会社で株価引き下げ対策(役員退職金の支給検討など)を実行します。
2.後継者側の準備:並行して、後継者が代表となり**「新会社」**を設立。この新会社が金融機関から事業承継資金の融資を受けます。
3.株式の売買:株価対策によって評価額が下がった最適なタイミングで、後継者の新会社が、オーナーの財産管理会社から事業会社の株式を買い取ります。
4.返済:新会社は、子会社となった事業会社から配当を受け、それを原資として金融機関への融資を返済していきます。
このスキームにより、後継者は個人の資金を一切使うことなく、会社の経営権(株式)を完全に手に入れることができます。まさに組織再編のメリットを活かした王道パターンと言えるでしょう。
【CASE2】不動産事業を切り離し、本業だけをスムーズに承継する
【課題】
製造業を営む事業会社が、先代から引き継いだ賃貸不動産も所有している。この不動産の価値が高く、会社全体の株価を押し上げており、承継の大きな障害となっている。
【解決シナリオ】
この場合は、「会社分割」という組織再編手法が非常に有効です。
1.事業の切り離し:まず、会社分割を行い、事業会社から賃貸不動産事業だけを切り離して、新しく設立した**「資産管理会社」**に移します。
2.株価の引き下げ:不動産という大きな資産が切り離されたことで、本業である製造業のみが残った事業会社の株価は大幅に下がります。
3.株式の承継:株価が下がったタイミングで、後継者がオーナーから事業会社の株式を買い取るか、贈与を受けます。
この方法により、後継者は少ない負担で本業の経営権を集中して引き継ぐことができます。また、不動産は資産管理会社として別法人で管理・承継できるため、事業リスクの分散にも繋がるという副次的な効果も期待できます。
【発展編】複数の組織再編を組み合わせる
【課題】
後継者に資金がなく、かつ会社全体の株価評価も非常に高い。さらに、会社内には高収益事業と低収益事業が混在しており、承継が非常に困難な状況。
【解決シナリオ】
これは難易度の高いケースですが、複数の組織再編を段階的に組み合わせることで解決の道筋を描きます。
1.第一段階(会社分割):まず、価値の低い「低収益事業」を会社分割によって切り離し、後継者が設立した新会社(β社)に移します。後継者はこのβ社の価値向上に専念します。
2.第二段階(株価対策):一方で、オーナーが保有する元の会社(α社)では、資産管理会社も活用しながら、徹底的な株価引き下げ対策を行います。
3.第三段階(株式交換):数年後、β社の価値が上がり、α社の価値が下がったタイミングで、両社間で**「株式交換」**を行います。これにより、価値の高いβ社の株式を持つ後継者は、非常に有利な交換比率でα社の株式を手に入れることができます。
4.最終段階(合併):最後に両社を合併させることで、グループ全体が完全に後継者の支配下に入り、事業承継が完了します。
このシナリオは、まさに専門家としての知見と経験が問われる領域です。しかし、どれだけ困難に見える状況でも、組織再編を駆使すれば解決策は見つかる可能性があることを示しています。大切なのは、諦めずに専門家へ相談することです。

組織再編を活かした事業承継対策に関して、疑問や質問があれば、いつでもお問い合わせください。
●関連法人の一覧
SAKURA United Solution株式会社(2022年7月より社名変更/旧:株式会社さくら経営)
一般社団法人さくら労務実務研究所
人財創造有限責任事業組合


お問い合わせ