経営の上り坂と下り坂、そして「まさか」
経営で注意しないといけないのは、どんなときでしょうか? ジリジリと売上や業績が下がってきたときでしょうか? 私は、絶好調のときが一番危険なのではないかと感じます。会社を経営していると、予想だにしなかったことが必ず起こるものです。それを私自身も経験してきました。本稿で、そのエピソードをお伝えします。
※本稿は、SAKURA United SolutionのYouTubeチャンネル内に開設した、iU学生起業家の茂木大暉氏(GADGETANKER LLC CEO)の経営相談に応える新コーナーより一部抜粋、編集したものです。
※iU(iU情報経営イノベーション専門職大学):2020年に設置され、東京都墨田区文花に本部を置く日本の私立専門職大学。産業界と連携した新しい学び、イノベーションを起こす人材を育成している。井上一生は、iUの客員教授を務めている。
【iU学生起業家の疑問・課題をトコトン解決】深夜ラジオ感覚で“聞く”経営相談室
シェア率を上げるために結んだパートナーシップで顧問先を失った
私たちSAKURA United Solutionは、コンビニエンスストア業界に特化した会計サービスでシェアを伸ばしてきました。2023年3月現在で、フランチャイズ加盟店の約10%(約5000店舗)のシェアに達しています。
まだ顧問先が数百店舗だった頃に、「ある大手コンビニエンスストア本部と独自のパイプがある」という企業の人と出会いました。上場会社のグループ会社で、その会社に仲介してもらい、顧問先を増やしていったのです。
しかし、「その人が自社の取り分を増やすために不正を働いている」と、その会社の社員の方が内部密告で教えてくれました。そこで私は、コンビニエンスストア本部に「弊社と直接契約してほしい」と伝えたのですが、その行動が仲介会社を飛ばす反乱と誤解されてしまい、結果的には100件以上の顧問先を失うことになりました。
上り坂で起こる、あり得ない「まさか」
「これから会社を伸ばすぞ」というときには、必ず先行投資をします。人材採用や店舗拡大、オフィス拡大、設備拡充など、まとまった資金が必要になるわけです。ランニングコストも上がることになります。その先行投資がうまくいかないと、会社は倒産してしまうことがあります。ジリジリと売上や業績が下がるジリ貧は、倒産ではなく「消滅」です。
前述の顧問先を失った出来事は、まさに私たちが事業を急拡大していた頃です。メンターであり師匠であるサイゼリヤの正垣さんから、「投資とはコストダウンなり」と教わり、スーパーの跡地を坪4000円の破格で借りてオフィスにしました。「自分たちで内装を行うから」と家賃交渉をして、好条件で借りることができました。自宅前の3坪の店舗で起業した頃と比べれば「もうこのオフィスで十分だろう。これ以上、オフィスが必要になることもないだろう」と思ったほど広いオフィスでした。そんなときに、100件以上の顧問先を失うことになったわけです。
経営には、上り坂と下り坂、そして「まさか」という3つの坂があると言います。「まさか、あり得ない」が起こるのが経営で、急成長していた頃に起きた出来事は私にとって忘れられない教訓になっています。「絶好調のときが一番危ない」という意識を持つことは、経営者にとって重要です。その意識を持ち続け、対策を考えておくだけでも、倒産を回避できる可能性が高まります。