「他力の風」で業界を変える──会計事務所経営の未来像と実践例(前編)

生成AI・AIエージェントが台頭し、労働人口が減少し、顧客企業もまた縮小の一途を辿る──。会計事務所という業態は今、構造的な変化の渦中にあります。かつてのように「黙々と記帳・申告をこなしていれば安泰」という時代は終わりました。そんな時代に、私たちはどう生き延びるのか。どう自分の価値を再定義し、事務所の未来を描くのか。「他力の風」をどう使うか。
これは単なる効率化や外注の話ではありません。人間にしかできない“本来の仕事”に集中するための、覚悟と選択の話です。本稿では、私自身の経験も交えながら、会計事務所経営の本質とこれからについてお伝えします。

「他力」とは何か──AI時代に生きる知恵

「他力」という言葉を聞いて、皆さんはどんな印象を持たれるでしょうか?

親鸞の「他力本願」。
そして、京セラ創業者・稲盛和夫さんが語った「他力の風」。

 

「無力な人間が、弥陀の本願によって救われる」──これは、現代風に言えば「自分一人の力ではどうにもならない問題に、外からの力を借りて打開の道を見つけること」かもしれません。

 

それは、AIかもしれない。人かもしれない。組織かもしれない。

 

私は、AIをこの“他力”と捉えています。
私自身、30年以上会計事務所を経営し、現在は大学でも集中講義を持たせてもらっていますが、学生たちと未来について話すたびに思います。

彼ら彼女らの目に、会計事務所という存在は未来の職業に映っていない。将来なくなる仕事として、AIによって代替される業種として認識されているんです。冷静に見れば、そう判断するのも当然でしょう。

記帳・申告といった業務は、いずれAIとクラウドが担っていく。この流れは止められない。だからこそ、私たちは「自分にしかできない仕事とは何か」を問い直す必要があります。

コンビニから学んだ“共通化”という生存戦略

私がかつて描いた理想は、「サイゼリヤのような会計事務所になること」でした。私は本気でした。チェーンストア理論を学び、1軒1軒DMとテレアポで開拓を重ね、最終的に日本のフランチャイズ加盟コンビニエンスストアの10%以上を顧問先とするまでに至りました。

 

私が講師を担当している大学のキャンパスがある田舎町の駅前で、マクドナルド、日高屋、ファミリーマートといった大手チェーンしか残っていない風景に衝撃を受けました。個人商店は消えてしまった。

なぜ大手チェーンだけが生き残れたのか?

 

答えは「共通化」にあります。

商品開発、仕入れ、広告、業務フロー、教育、ITシステム…あらゆるものを共通化し、生産性を最大化しているから、田舎でも競争力を持てる。この構造は、会計事務所業界にもそのまま応用できるはずです。

すべてを自前で背負い込むのではなく、共通化できるものは“他力”に任せる。
そして、自分にしかできない専門的支援やホスピタリティに集中する。それこそが、今求められている経営のあり方です。

「生き延びる事務所」と「消えていく事務所」の違い

最近、入院中の女性税理士の先生から「記帳代行だけでもお願いできませんか?」というご相談をいただきました。私どもはその記帳を在宅ワーカーに委託し、弊グループの公認会計士がコンサル業務を代行するという形で事務所をサポートしています。この先生の判断はとても賢明です。

自分のリソースを“他力”に任せ、自分の専門性に集中する決断をされた。そして、こういう決断ができるのは、実は女性の方が多いんです。生命力が強く、腹をくくるのが早い。何より「自分の得意」に誇りを持っている。一方で、「すべてを自分で抱え込む」タイプの経営者は、AIにも人手不足にも耐えきれず、疲弊していきます。

今、必要なのは「すべてを一人でやる事務所」から、「役割分担で価値を発揮する事務所」への転換です。

 

ここまでお読みいただきありがとうございました。

次回の【後編】では、私たちが実際に取り組んでいる「在宅ワーカー140名体制」「障がい者・外国人材活用」「AI提案サポートシステムの開発」など、組織としての“他力の構造”について具体的にご紹介します。

 

さらに、税務の最先端対応や、業界の未来像、仲間と力を合わせて生き延びる「集合知の経営」についても、踏み込んでお話しさせていただきます。

 

士業事務所経営に悩む、あなたの未来のために。
私たちの経験と挑戦が、少しでも参考になれば幸いです。

 

(後編に続きます)

 

 

 

 

 

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