既存の現場と革新をつなぐ経営の「パラレル・パラダイム」
経営改革や新技術の導入は、多くの経営者にとって避けられない課題です。しかし、現場に新たな提案や価値観を押し付けるだけでは、変革を実現できません。私たちが提唱する「パラレル・パラダイム」という新たなアプローチは、現場と経営トップのギャップを埋め、スムーズな改革を促す方法です。本稿では、船井総研が開催する年に1度の全国大会で私が士業の方々にお話しした要点を振り返りつつ、パラレル・パラダイムの意義とその実践について考察します。
現状維持と変革のジレンマ
経営改革を進める際、最も大きな壁となるのは、現場と経営トップの乖離です。「パラダイムチェンジ」とは従来の考え方や方法を根本的に変えることを意味しますが、現場にとってそれは容易なことではありません。人間は、習慣の生き物だからです。頭で理解できても、実行はなかなかできません。
特に税理士、会計士、社労士などの士業の現場では、既存の業務フローが日常業務に深く根付いているため、急激な変革に対する抵抗が生まれるのは自然なことです。例えばAIやDXの導入を提案されても、日常業務に追われる現場はその変化に即応できないという声が多くあります。このような現場の現実を無視したトップダウンの変革は、むしろ混乱を招きかねません。
パラレル・パラダイムの概念
ここで私が提唱する「パラレル・パラダイム」は、既存の仕組みを一気に置き換えるのではなく、新旧の手法と並行して走らせるという考え方です。ちなみに、私がつくった造語です。
これは、東海道本線と新幹線の関係に例えられます。新幹線が誕生した際、従来の東海道本線を改造するのではなく、新たな線路を引いたのは、現場に負担をかけずに、並行して新しい技術を導入するためでした。すでに生活に欠かせないインフラになっているわけですから、それを止めるわけにはいきません。これと同様に、経営改革も現場に過度な負担をかけることなく、現行の方法を維持しつつ新たな手法を別途開発していくことが、組織全体の安定的な成長に繋がるのです。
経営者の役割と現場の連携
経営者は、常に新しい手法や技術を学び、導入する責任を負っています。しかし、それを現場に押し付けるだけでは効果はありません。むしろ、現場が抱える日常の課題を理解し、現実的な範囲での変化を提案することが重要です。
例えば、私どもが実践したオフィスのフリーアドレス化やBPOの導入といった変革も、現場がその負担を感じずに進められる方法を見つける必要があります。経営トップが理想を追い求める一方で、現場はその理想に追いつけない状況が続くと、結果的に組織全体の効率や士気が下がる可能性があります。さらには、社員の退職という悲しいことも起こってしまいます。
パラレル・パラダイムの実践と共創
私が提唱する「パラレル・パラダイム」は、現場の維持と同時に、未来の理想的なビジネスモデルを別の形で開発することです。現行の業務フローを尊重しつつ、新しい技術や手法を試験的に並行する形で導入し、その効果を検証する場を作ることが考えられます。
この方法により、現場に過度な負担をかけることなく、組織全体の成長を実現できるでしょう。私たちの「一般社団法人ASUNA ALLIANCE CONSULTING」では、この新しいパラダイムを士業の皆様と共に開発し、次世代のビジネスモデルを共創していくことを目指しています。この共創のプロセスこそが、今後の経営改革において重要なカギとなるでしょう。